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「あ、はい、えっと……景虎」
若干小っ恥ずかしい気もするが本人がそう呼んで欲しいというならとこれからは景虎と呼ぼうと心がける。
そんな俺を実乃がじっと監視するように見ていた。
ー翌年ー
「殿ー!」
相変わらず大きな声を出しながら本庄実乃が足音を鳴らしながら部屋にやってくる。
「あ、実乃さん」
俺こと輝広は書類の整理をしながら実乃を見た。
「おぉ、輝広殿、む? 殿は何処に?」
最初こそ小童が! と邪険にされていたがある程度仕事をこなせるようになってきたくらいから彼からの当たりも嘘のようになくなり今では可愛がられている。
「景虎なら鍛錬してきますって道場へ行きましたよ」
丁度書類を整頓し終わりしっかりと実乃を見て驚くことになった。
「な、なにかあったんですか?」
彼は額にびっしょりと汗をかき、いつも迫力がある顔をいつもの倍増しくらいでしかめている。まるで苦虫を潰したような顔だ。
「と、とりあえず殿に会わねば、おぉ、そうだ、輝広殿もついて参れ!」
叫ぶようにいうと脱兎のごとく実乃は部屋を出る。
これはただ事ではないと思い俺も急いで実乃を追いかけた。
ー道場ー
綺麗な女性の声が外まで聞こえてくる。
「殿ー!」
その声をかき消さんばかりに実乃が叫ぶ。道場に入ると長尾景虎が苦笑いしながらこちらを見ていた。
「どうしたのですか?」
額にすこし汗をかいた景虎が俺たち二人を交互に見ながら尋ねた。
「どうしたもこうしたも! 一大事ですぞ!」
「実乃さん、一大事ならはやく景虎に内容を伝えないと……」
俺と実乃のやり取りが面白かったのか景虎の可愛げのある小さな笑い声が聞こえた。
「あぁそうであった。実は殿、敵がこの城に向かっているとの報告が!」
一瞬俺自身も実乃の言葉を理解できずに呆気にとられる。景虎を見ると拳を握り締めて小刻みに体を震わせている。
「実乃さん、詳細を」
俺がそう言うと彼は頷く。
「晴景様を侮った豪族どもが謀反を起こしこの栃尾城を攻め落とそうと向かっておるようで、おそらく殿が元服して間もない故、侮っているものと」
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