一 こころ

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 緊急事態発生である。 「部室をよこせぇ!?」  思わず叫んだあたしに、女バレ部部長は申し訳なさそうに言った。 「ずっとじゃないのよ? 運動部の部室棟の改修工事をやるって聞いたでしょ? どの部も空き教室に振り分けられたんだけど、うちって部員多いから社会資料室じゃちょっと狭くって……。文芸部にオッケーもらえたらいいって先生に言われたのよ。国語資料室なら隣だし、それに」  部長はそこで言葉を区切って、ちらりとあたしの方を見た。  その先に続く言葉をなんとなく予想できてしまった。もう何回も言われてきた言葉だ。 「文芸部って実質二人でしょ? 部室いらなくない?」  ごねても相手は先輩だ。一年のあたしに逆らう術はない。唸って粘ったけど、最終的には頷かされてしまった。  あたしはポケットからスマホを取り出した。 「ほのこ、また既読無視して……」  もう一人の部員・吉崎ほのこはたぶん教室でキーボードを打ってる。  確かにあたしに文才はないから部の活動に関してはほのこに任せるしかないけど、この部の存続の危機にあたし一人で対処するのは難しすぎる……。  文芸部、部の存続に必要な最低人数の部員三人。うち一人は掛け持ちだから実質二人。パソコン一つあれば活動できるから、あの部室は広すぎるといってもいいけどあまりに横暴だ。  ともかくは新しい部室を探さなきゃいけない。あたしは校内を当てもなく歩いていた。  春の終わりの風は暖かくて、ずっとこの季節が続けばいいのにと思ってしまう。あとひと月もしたらにっくき梅雨が来るんだ。くせ毛には天敵のあの季節……。  あたしは肩までのくせ毛をいじった。  足元の葉っぱが飛んでく先を目で追ったのは、無意識だった。あたしそのまま視線を上げる。その先にあったのは、古い洋館だった。そこまで大きくはない。せいぜい教室二つ分かな。少しくすんだ白壁の、二階建ての建物がそこにはあった。 「そういえば図書館って、校舎から離れてるって聞いたような……?」  うちの高校は古くて、図書館には結構歴史的価値のある本があるって担任が言ってた気がする。  辺りに人気はない。 「……部室候補?」  あたしは早速図書館へ向かった。
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