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泣き顔をお兄ちゃんたちに見られるわけにはいかないと、翼くんはトイレで顔を洗うと先に帰っていってしまった。
それからしばらくしてから、お兄ちゃんとあさみちゃんは柳井さんの家から出てきた。しっかりと繋がれた手は、うまくいった証だろう。
あたしとほのこは再び柳井家に通された。今度は居間で、柳井さんがお茶を煎れてくれる。先生には悪いけど、やっぱり柳井さんのお茶の方がおいしいや。
「そういえば先生、なんでブックカバーのこと分かったんですか?」
先生は漆塗りの箱を戸棚に仕舞って振り返る。
「あぁ、翼のラッピングをしたのは俺だったからな。メッセージカードに書いた名前が『翼』じゃなかったんだよ」
なるほど。あのコーナーを見て、お兄ちゃんの代わりに想いを伝えようと思ったのか。
あたしはちらりと先生の方を見る。
先生はキッチンの方で柳井さんと話していて、あたしの視線に気づいていない。
想いを伝えたお兄ちゃん。想いを伝えなかった翼くん。どちらも勇気がいっただろう。どっちが正しいとか、間違っているとかじゃない。選ぶ過程に意味がある。
あたしはどうしたいんだろう?
先生からすれば、あたしは子どもだ。小娘って呼ばれているくらいだし、大人な先生からすれば女子高生なんて眼中にもないだろう。
あたしは先生と付き合いたいのかな……?
あー、ダメだ。先生を見ていたら動悸がやばくなってきた。
今告白しても、きっと振られるだけだろうし、なんとか眼中に入るようにがんばんなきゃ。まずは脱・小娘!
「前途多難ね」
「まったくだよ……」
ってほのこさん? 心を読むのはやめよう?
「みちるが顔に出やすいだけよ」
ほらまたー!
あたしそんなに顔に出やすいかな!? 先生にも気持ちばれている!?
一人わたわたとしていたあたしは、「小学生相手に余裕がないですねぇ」と柳井さんが言っていたことに気づいていなかった。
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