三 彼岸過迄

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 事件が起きたのは、週明けだった。 「ちょっとー。これいじったの誰―?」  課外授業が終わって、教室の片隅に寄せていた文化祭の道具を出していたときのことだ。  なにやら道具周りが騒がしい。 「どうしたの?」 「あっ、みちるー。これ見てよ」  その子が差し出したのは、ステンドグラスもどきとして作っている黒の画用紙だった。人の形に中央が切り取られていて、そこにカラーフィルムを貼ってステンドグラスっぽくするのだ。 「これがどうかしたの?」 「図案が変わっているの! もー誰? こんないたずらしたの!」  あたしは元の図案を見ていないから分からないけど、すりかえられた? でもなんのために? 「ねぇ、元の図案はどんな感じだったの?」 「えっとね、私たちは電車に乗る男の人を作ろうとしていたんだけど、女の人に変わっているの」  あたしはもう一度画用紙を見てみた。確かに電車から降りてくるのは女の人だ。 「もー、作り直しじゃん」  その絵の班の子たちはぶつくさ言いながら行ってしまった。いたずらされた画用紙は、ゴミ箱へ乱暴に突っ込まれた。  画用紙に描かれた女の人は、行き場を失って途方に暮れているようにも見えた。  クラスの展示だけでなく、あたしたちは文芸部でも部誌を出すことになっている。ほのこが中編小説を一本、あたしが表紙イラストとカットを何点か描く予定だ。航にもなんか書けって言っているけど、あいつやるかなぁ?  クラスでの準備を切りのいいところで終わらせて、あたしたちは資料館へ移動していた。 「ふむ、まるで絵がひとりでに動いてしまったかのようだねぇ」  あたしは館長さんに、今日のできごとを話して聞かせた。  考えれば考えるほど、不可解な事件だ。  元の絵はなくなっていた。みんなでがんばって作っていたのに、盗むなんてほんとにひどい。せめて捨てられていないといいんだけど……。 「盗んだっていうならまだ分かるんですよ。もしくは捨てた。でも代わりの絵を用意するってどういうことなんでしょう?」  ほんとそれ。犯人はどうしてそんなに手間になることをしたんだろう。まるで、絵が動いたかのようだった。
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