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事件が起きたのは、週明けだった。
「ちょっとー。これいじったの誰―?」
課外授業が終わって、教室の片隅に寄せていた文化祭の道具を出していたときのことだ。
なにやら道具周りが騒がしい。
「どうしたの?」
「あっ、みちるー。これ見てよ」
その子が差し出したのは、ステンドグラスもどきとして作っている黒の画用紙だった。人の形に中央が切り取られていて、そこにカラーフィルムを貼ってステンドグラスっぽくするのだ。
「これがどうかしたの?」
「図案が変わっているの! もー誰? こんないたずらしたの!」
あたしは元の図案を見ていないから分からないけど、すりかえられた? でもなんのために?
「ねぇ、元の図案はどんな感じだったの?」
「えっとね、私たちは電車に乗る男の人を作ろうとしていたんだけど、女の人に変わっているの」
あたしはもう一度画用紙を見てみた。確かに電車から降りてくるのは女の人だ。
「もー、作り直しじゃん」
その絵の班の子たちはぶつくさ言いながら行ってしまった。いたずらされた画用紙は、ゴミ箱へ乱暴に突っ込まれた。
画用紙に描かれた女の人は、行き場を失って途方に暮れているようにも見えた。
クラスの展示だけでなく、あたしたちは文芸部でも部誌を出すことになっている。ほのこが中編小説を一本、あたしが表紙イラストとカットを何点か描く予定だ。航にもなんか書けって言っているけど、あいつやるかなぁ?
クラスでの準備を切りのいいところで終わらせて、あたしたちは資料館へ移動していた。
「ふむ、まるで絵がひとりでに動いてしまったかのようだねぇ」
あたしは館長さんに、今日のできごとを話して聞かせた。
考えれば考えるほど、不可解な事件だ。
元の絵はなくなっていた。みんなでがんばって作っていたのに、盗むなんてほんとにひどい。せめて捨てられていないといいんだけど……。
「盗んだっていうならまだ分かるんですよ。もしくは捨てた。でも代わりの絵を用意するってどういうことなんでしょう?」
ほんとそれ。犯人はどうしてそんなに手間になることをしたんだろう。まるで、絵が動いたかのようだった。
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