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アイリ。
誰も居ない教室。
教壇の上で彼女の大きな瞳から零れそうな涙を。
出来ることなら僕が拭ってあげたかった。
「私も好きだった。卒業してから別々だね」
「ああ」
彼女は肩までのその艶やかな黒髪を耳にかけた。
それに普段はカーディガンのみのスタイルだが、卒業式のため今日だけはブレザーだ。
「ねえ。最後に思い出、頂戴?」
少し紅潮した頬。
伺うような瞳。
何もかもが可愛い。
「いいよ」
彼女はそっと目を閉じ、そのまま引き寄せられるように唇が触れ離れると、ふわりと微笑む。
「ありがとう」
僕は急いで携帯電話を手に取った。
「もしもし? そうキスしたぞ! しかもアイリちゃんだぞ!?」
優越感と達成感の入り交じった僕の声。
「それもレア。髪下ろしたブレザースタイル! これ完璧ルート選択じゃなきゃ見れないやつな。まじで苦労したわー」
僕は清々しい気分でゲーム機のコントローラーを置いたのだった。
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