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ピクリ、と
そばだてる様に耳を動かした白猫が低く鳴いた。
タラゼド城の一角に与えられた自室の窓から見える月に向かい、彼女は鳴き続ける。
「……ニジュ」
ふわふわとした尻尾を見つつ呼んでも一心不乱なそれが止むことはなくて。
長年自分と行動を共にしてきた彼女だからこそ、何か不穏な空気を感じ取っているのかもしれない。
この国に、
この地に迫る、黒い大群の気配を。
「静かに。皆『備えてる』んですから」
月明かりの中で自らの腕に収めた猫、ニュアジュと視線が交わって、それから彼女は身震いの後に鳴き声を止めた。
本来であれば、この後何時間でもブラッシングをしていたい。
しかしそれは叶わないのだ。
自分とて、備えなくてはならないから。
この国の大佐として。
海を越えてやって来る、黒い大群に。
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