注がせてください、あふれるまで

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   もう--六年も前になる、昔の話だ。 俺、近藤つばさが高校三年だった時、好きな人から離れたのは。 その人は俺より二つ年上で、当時は俺の家庭教師の先生だった。 教え方は下手ではないが、淡々と卒がない感じで、最初の印象は面白みのない人だった。 その時は俺も、志望大学に受かるぐらいの実力がつけばいいしと思っていたから、別段仲良くなる気もなくて、ただ勉強を教えてもらっていた。 週三回。 それが、あの人と顔をあわせる機会。 最初は、気づいたらカテキョの日になってて、『ああ……またか』と思ってた。 それが、日を重ねる度に、待ち遠しくなり、『まだ来ないのか』と、思える程になっていた。 変わっていったのは、いつからだったんだろう? はっきりとは、分からない。 ただ……。 きっかけの一つになったとすれば、一度だけ、カテキョとは別の場面で、あの人を見た事があった。 最寄駅の改札を出た時、偶然にもあの人の姿を見つけた。 彼は彼女らしき人と二人、並んで歩いている……そんな後ろ姿だったけど。 あの人でも彼女いるんだ、ふーん なんてーーちょっと失礼な事を思ったのも束の間で。
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