終章 大団円とはほど遠い

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 水筒に毒を混ぜることに、すぐに思い至りました。 彼との交際は、泰介さんより以前から密かに続いていました。不思議に思いますよね。私は罪深い女です。  私には都会への強い憧れがありました。けれども陣本さんは一生をあの寂れた閑村で終えるつもりでいました。私はそのようなことを望んでいませんでした。生活の拠点を都会に置いている泰介さんは、私にとって憧れでした。  泰介さんに対して愛する気持ちがあったか。それはきっとノーです。あくまで都会での生活に憧れていたのです。もし彼のことを愛していたのなら、あのとき、裏庭で彼に抱きすくめられた時も「襲われた」などと思わなかったはずです。  そうなのです。あのとき、泰介さんは私に深い愛を持って抱いてくれたのです。なのに私はそれを拒絶し、あろうことか彼の尊い命まで奪ってしまいました。  私は自分の身勝手さから、二人の男性の命を奪ったのです。 私は醜い怪物です。  私は捕まるべきなのです。  けれども、事件はすでに終わってしまいました。今から出頭すればいいではないかと思うでしょう。けれどもそれはできません。  父は代議士です。多くの人々に支えられなければ続けることのできない仕事です。私が真実を明かせば、きっと父はその職を失うでしょう。  これで私の告白は終わりです。きっと、再び会うことはないでしょう。  進藤ハルヒトさん、松田翔一郎様。おふたりのこれからの人生が幸福であることを祈ります。                          三峰紗耶』                            終
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