終章 大団円とはほど遠い

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 二月某日。僕はまた、あの喫茶店に向かって歩いていた。  駐輪場に愛車を預けると、はやる気持ちを抑えてそこに向かう。  唯一と言っていい物証は、忠義を尽くす書生の手によって跡形もなく焼き払われてしまった。事件現場に残っていた水筒の指紋ひとつでは、それ以上の追及は難しいだろうと思った。  けれども僕は、それでもいいと思っていた。  警察は、陣本が嫉妬に駆られて次期村長を殺めたのち、警察や素人探偵コンビの疑惑の目が自分に向いたことで観念して自殺したものということで、捜査も収束に向かっていた。僕はなぜ首を切られたかが分かればそれで満足だったし、波風も立たない。唯一、僕の招聘した探偵だけは、その結末に納得していない様子だった。  そのようなうちに、僕らは村を発ったのだった。  『つつみや』の車に乗って去る時に、僕はなんとなく振り返った。丘の上に建つ寂れた鳥居が、僕の事を見下ろしていた。たぶん、あの村を訪れるようなことはしばらくないだろうと思う。  堤夫婦は相変わらずあの閑村に民宿を構えている。客など来るのかと思ったけれど、元々道楽で始めたものなので、利益などどうでもいいということらしい。それでも、あのような惨たらしい事件のあった村にいまだに住もうと思うなんて、なんと肝が据わっているのだろうかと感心する。
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