終章 大団円とはほど遠い

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 今の僕は、まるで半年前の再現のようだった。大仰な茶封筒のかわりに、便箋入りの小封筒を携えている。僕がすでに読んだため、封印は解かれている。表面には僕の名前や住所が小綺麗な字で書かれていた。投函されたのは久美刈村からほど近い街中らしい。裏には住所はなく、三峰紗耶とだけ書かれている。  時間は午後三時少し前。今日はあまり長くなりはしないだろうと踏んで、半年前よりは遅い時間を指定したのだ。彼がこれを読む間、コーヒーを啜りモンブランをつつくつもりだ。  喫茶『倫敦』を訪れると、松田翔一郎は前と同じ席でコーラを飲んでいた。 「それが、彼女からの手紙かい」  テーブルの中央に置いた封筒を見て、彼は言った。僕は静かに首肯した。  叔父から聞かされたことは、彼にもすべて伝えた。僕らの最大の関心は、三峰紗耶の犯行動機だった。結局数カ月前の会見では、そこまで踏み込まなかったのだ。この手紙には、それも記されていた。いや、むしろそれが全てだ。  手紙の概要も伝えてあった。それを聞くなり、彼はすぐにでも読ませてくれと言った。  彼が大義そうに封筒から便箋を取り出すのを見届けて、僕はケーキセットを注文した。あの、少し乾燥したモンブランを。
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