記憶消失

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 スクリーンを見ると、また男の顔が映し出されている。優しげに笑いかけられる。悪寒が走った。 「さぞ驚かれたことでしょう。『私』の記憶を消したのは、他の誰でもなく『私』なのです。しかしもはや『あなた』は『私』ではない。そこにあるのは怒りですか?」  怒りではない。何かだ。恐れに近かった。 「あなたの中にある感情がなんであろうと、私は私の最後の仕事をします。引き出しにあるものすべてを出してください」  言われた通りに出して、机に並べた。 「この施設には、秘密保持のためにすべてのデータを破壊し、施設ごと焼失させるシステムが設置されています。そのセキュリティーシステムを作動させるにはあなたの虹彩、利き手五指の静脈、声紋、そのすべてが必要です」  俺は自分の手を見た。震えている。全身に嫌な汗をかいている。 「この部屋の奥に、所員用のシェルターがあります。私の説明が終わった後ただちに、伊藤君をそこへ移してください」  足元の女を見た。死んだように眠っている。記憶を失う前の俺はこの女を愛していたのかもしれない。女は自分が俺の『大切なモノ』であったことが嬉しかったのだろう。
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