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「さあ、もうボクは疲れたんだ。…早く、終わらせてくれ」
「いや…でも…」
「坊ちゃん!!!」
ノエルが何か言いかけようとしたとき、従者・グレイグが何かを訴えかける様に自分の主の名を叫ぶ。
まだやれる、まだ終わりじゃ無いと言いたいような顔をしつつ、もうほとんど形を成していない下半身を無理矢理引きずりながら、王の手を取る。
「坊ちゃん…まだ、まだ俺は…っ」
「泣くなグレイグ」
従者の懇願をぴしゃりと制止させる。
「寧ろボクは清々しいんだ。もう、誰も憎しまずに済むんだ、そうだろう?」
そう言われるともう従者は何も言わなくなってしまった。それを確認すると、再び王はノエルの方を向いた。
その水色の目には覚悟と、清々しささえ感じる色を宿していた。
「…もう、後悔は無い?」
「ああ、ただ心残りと言えば、ボクの同胞達がまた実験道具に使われてしまうのか、と思うところだな」
「そんなことは、もうさせないよ」
驚いた様に王は顔を上げる。ノエルは目を合わせつつ言葉を続ける。
「これが終わったら、上に掛け合う。証拠は今回嫌と言うほど見てきた。もう、誰も悲しませないよ。君たちも」
それを聞き、王は目をぱちぱちと瞬かせた後、ふ、と柔らかく口元が緩む。
「…あぁ、お前のような人間ばかりだったら戦いなんて生まれなかったのかもな…」
「…どうだったのかな。もうそんなこと言っても仕方ないよ。未来に向かって進むしかないんだよ」
「…そうだな」
少し思案した後、顔を上げる。
「未来をお前達に託すぞ、ノエル」
その口調は、強くはっきりとしており、最後まで王としての威厳を保ったままのようであった。
その言葉に首肯し、槍の刃先を王の心臓に向ける。少し震える手に力を込め、真っ直ぐ、王を見据える。
「…どうか、安らかに」
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