無始無終

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 俺を呼ぶ声が聞こえる。畏怖にまみれた世界へと誘おうとする使者からの奸智に満ち満ちた叫びである。性懲りもなく、また降りてきたのか。俺は耳を塞ぎ、ただ懊悩する。それが俺にできる唯一の抗いなのだ。  形而下には恐怖が溢れている。  こんな俺の考えを矛盾していると人は言うだろうか。 確かに、世にまします八百万の神々や、心霊などは形而上の存在である。だが、それに恐怖を感じるのは、少なくともそれらを事物として形而下で視認したときだ。人が怪談やオカルトにおののくのは、形而下にそれがあり、時に見え、時に触れられるからだ。ありもせず、目撃談も存在しない事象に人は恐怖できない。  究極を言えば、視覚できさえすればどんなものだって恐怖の存在たりえる。要は、認識した事物に対し種子たる付随物が伴えば、人は恐怖するのである。先天的本能や後天的トラウマなどがそれだ。恐怖の対象は人それぞれであり、十把一絡げには考えられない。  たとえば、猿。今年の干支であるがゆえに、最近よく各種メディアで露出が増えてきているが、俺は彼らに恐怖している。  自然の摂理にのっとるのであれば、人間はサルよりも弱い。身体能力、筋力、握力、腕力あらゆる面で我々はサルに劣る。 もしも、人間とサルを同じ数だけ無人島に放り出したら、生き残るのは確実にサルの方だ。であるならば、弱者たる人間が、なぜサルを支配下に置けているのか。
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