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気を紛らわせるように、朝食にと用意されたヨーグルトを口にする。一見すると、何気なく食しているようにも思えるが、これでも俺は吐き気をこらえながらその白濁した食品を喉に押し込んでいるのである。なぜなら、俺はこのヨーグルトにも少なからず恐怖心を抱いているからだ。
もっと言うと、ヨーグルトのみならず発酵食品全般が俺の恐怖の対象だ。これは生理的な恐怖に根ざしたものである。
マクロな世界にいると見落としがちになるが、ミクロの世界には、世界人口とは比べ物にならぬほどの生物がひしめき合っている。
俺がすくったスプーンいっぱいのヨーグルトの中にも、万はくだらない細菌類が活発にうごめいている。それら異物が大挙して体内に押し寄せるのである。身体がなんの変調も来さないのが不思議なくらいだ。
そう。こうやって煎じ詰めていけば、物に溢れた外の世界は、つまり形而下は恐怖の吹き溜まりである。そして、この部屋の扉の向こう側には、形而下の化け物がいる。
「タカヒコちゃん! いい加減に出てきなさい。母さん、怒っていないから。話し合いましょうよ。ねえ、返事して! タカヒコちゃん!」
外界には恐怖が蔓延っている。
ああ、どこにも出られなくなってしまった。
《完》
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