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真二のうろたえた声を聞く男の背筋に寒気が走る。
「おぃ、今の音は何じゃ!?
エモノは持っとるな? 近場の奴を応援に行かす、
それまで持ちこたえとけ! 」
(何じゃ? ただのクスリでおかしくなった奴ちがうんか?
対立組織? まさか? こんなふざけた手口の奴らなぞおらんわ!
しかも三階から事務所に侵入したじゃと?)
そう考えていると、電話の向こうから真二の強がる声が聞こえてきた。
『と・・・隣の部屋やと思います。
今もなんかごそごそやってます!
物盗りかもしれません、
大丈夫っすよ・・・一人で片付けます!』
真二はそうは言うものの、男の胸中には言い知れぬ不安感がぬぐえなかった。
「お・・・おい、ちょっと待たれ・・・」
『先輩・・・一度、電話きり ま す・・・う わ あ あ
(ガチャーン!)』
激しい窓ガラスの破れる音が聞こえた。
真二の叫びが早かったかもしれない。
携帯を床に落としたような衝撃音も続く。
窓の外に「それ」を見たのだろうか?
「おい! 真二ぃ! 真二ぃぃ!!」
電話口からは、
人間の声というより、動物の悲鳴のような嗚咽が断続的に聞こえている。
何かを引きちぎるような嫌な音もだ・・・。
男は必死で呼びかけるが、もはや真二の悲鳴は、それ以上発せられることはなかった・・・。
電話口では、まだ何かゴソゴソ音が聞こえる・・・
「真二ぃ・・・!」
何が起きたかは想像に難くない。
男が、携帯に向かって怒鳴り声をあげようとしたまさにその時、
向こうの電話を拾い上げるような音が入ってきた。
相手の呼吸音が小さく聞き取れる・・・
間違いなくそれは、真二のものとは違う。
「おまえ・・・誰じゃ・・・っ!?」
小さな声は、しかし、はっきりと男の耳に届いた・・・。
『わたし、 メリー・・・
生きることを奪われた うら若き少女に
魂の安らぎを・・・。』
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