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「ああ、雨降りは仕方ないさ、ここ来る客は殆どが洗車目当てだからな?全く今時洗車が100円だなんてウチくらいなもんだぜ?」
吸い殻を缶のバケツに捨てながら俺はため息をつく。
水洗い洗車が一回100円というのは確かにこのあたりではウチのスタンドだけだった。
したがって雨あがりの晴れの日は3台や4台の洗車待ちってのは当たり前でそんな日は常にフル回転なのだ。
「なあ、それよかお前今日何時あがりだよ!」
俺が返した灰皿をカチャカチャと元に戻しながらヒロが聞く。
「えっと・・今日は金曜だから20時かな?、はい10リッター1250円ね?」
「そっか、だったら急な話だけど今日飲み行かねーか?」
「はあ?お前金ねぇんだろ?それとも何だぁ~、俺にタカリかける気かよ!」
領収書伝票と現金を交換しながら俺は呆れた顔でヒロを睨みつける。
「バカヤロ、俺の話最後まで聞けよ!」
慌てながらもヒロはそう言いって説明し始めた。
やつの話はこうだった、駅前に小さなカラオケスナックが出来たのだが、そこのママさんとヒロが知り合いらしく、常連になりそうなお客を連れて来てくれるならボトル1本サービス、オマケにツケで飲ませてくれるというのだ。
「な、悪い話じゃないだろ?ジュン!」
全開にしてあったパワーウインドーに肘をかけ、身を乗り出すような格好で上目遣いにニヤけるヒロは俺が間違いなくOKするだろうということを見透かしたかの表情だ。
「まあ、そりゃ確かに悪くはねぇけどさ!」
「けど、なんだよ?」
イマイチ歯切れの悪い俺の応えにそう言うヒロには分かっていた。
「いい女がいるのか?・・だろ?お前の顔見りゃすぐ分かるさ!」
ヒロとは高校時代からずっと連んでいたし不良とまでは行かないまでも、深夜のゲーム喫茶で一緒にテーブルゲームに夢中になったと思えば、週末にはナンパに出かけたりもしていた仲で、そう言う点からも互いに女性の好みを理解しあっていた。
「残念だが、その辺はまだ知らねぇ、でもママはいい女だぜ?バツイチ子持ちだけどな?」
「年上だろ?興味ねぇよ!でもまあ、それはそれとして店の新規開拓って考えりゃ、一度くらいは付き合ってやってもいいかな?」
夜は帰宅しても大して面白くもないテレビを観て寝るだけだった俺にとってはヒロの誘いに乗ることにした。
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