もう一度逢いたい君へ 2話

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駅前とは言っても埼玉の田舎であるここは小さなロータリーがあるだけで、周りにはコンビニやパチンコ店、本屋なども立ち並ぶとはいえ、大きな駅ビルなどがあるわけでもない。 朝の通勤時間帯と帰宅ラッシュを除けば昼間は電車から降りてくるひともパラパラ程度の長閑な風景が広がっている。明るいうちなら世間で言われているような「ダ埼玉」というロケーションが拝めたことだろう。 ヒロが言うそのスナックは駅前から歩いて2、3分といったところだろうか? さほど大きくもないが、少し広めの喫茶のような何処にでもある感じの店だった。 まだオープンしたばかりというのは本当らしく、店の入り口には花輪がポツンとひとつだけ飾られてある。 「いらっしゃいませー」 カランと音を立て扉を開けると愛想の良さげな女性が、大きな声で俺たちを迎え入れてくれた。 (なるほど、多分この人がヒロの言うママだな?) 一目でわかるその女性は明るい柄の着物を着て長い髪をアップにはひとまとめにしている。 歳は恐らく30代前半ってところだろうか? 目鼻立ちのはっきりしたスリム体型でなるほど確かにヒロの言う通り美人だった。 「あら来てくれたんだ?嬉しい!」 カウンター席に並んで二人で腰掛ける俺たちにおしぼりを持ってニコニコしながら挨拶にくるその女性はやはりここのママであった。 ぺこりと小さくお辞儀をする俺に彼女は「カルメン」という屋号の下に「しのぶ」という自分の名前が入った薄いピンク色の名刺を手渡す。 「お名前うかがってもいいかしら?」 そう言われて慌て自己紹介する俺。 ヒロは早くもカウンターの中にいる40代くらいの坊主頭の男性に挨拶している。 どうやら調理を専門に担当するひとで、ママとは対照的とも言えるくらい口数の少ないひとだ。 「そう、ジュン君ね?じゃジュン君、これからよろしくね?」 ママは俺に改めてそう言うと、カウンターの中に戻る。 「どうだ、ジュンこの店?」 出されたおしぼりで軽く手を拭いたあと、ヒロは俺の耳元でそう囁く。 「そうだなぁ雰囲気もいいし広さも俺好みだな」 5人掛けのカウンター席の後ろはボックス席が3つ、入り口からの真正面に大きめのスクリーンがありカラオケが置かれている。また天井には小さなミラーボールが吊るされていた。
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