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「ママも美人だし・・を付け加えてね?」
俺たちのひそひそ話をしっかり聞いていたのか、笑いながらしのぶママは言う。
「そういやしのぶさん、俺たちの他に客いないけど、まだ時間早いのかな?」
出された水割りを片手に取って一口飲むとタバコを咥えるヒロ。
「オープンして二週間になるけど昨日まではかなり入ってたのよ!今日は残念ながらこの雨でしょ?参っちゃうわね。まあ勝負は週末の土曜日かな?」
ヒロのタバコにライターの火を差し出しながら少しだけため息をつく。
俺が20代の頃の話だからこの頃はまだ世間一般に土日完全週休二日という企業は少なかった。
週末と言えば「華金」じゃなくて土曜日が主流であり、駅前の店に立ち寄るサラリーマンも今日ばかりは店の前を素通りしていくらしい。
やがて9時半を回った頃だろうか、雨も小降りになってきたらしく、40代くらいのネクタイを外したサラリーマンが数名入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
しのぶママは俺たちにちょっとゴメンという仕草を見せながら彼らを席に案内する。
どうやらここが二軒目なのか、既に出来上がってる様子だ。
ボックス席のソファーにドカッと腰をおろすと大きな声で「ビール!」とだけ叫ぶ。
ママが瓶ビールの栓をあけて
お通しと一緒にテーブルに運びながら名刺を手渡しているところを見るとどうやら彼らも今日初めてここの扉を開けたようだ。
数分もしないうちに彼らはカラオケのマイクを要求して店は急に賑やになり始めた。
「全く迷惑なやつらだな?カラオケのボリューム少しは下げろって思うよ!」
ヒロの肩を人差し指で突きながら俺はやつらを睨む。
「仕方ないさ、今の呑み屋はカラオケが当たり前だからな?」
俺たちは何杯目かの水割りを今度は少し濃いめ作ってもらい飲み出す。
と、その時だった。
「ようよう、ママさんよう、どうでもいいが、この店には女の子ってのはいねぇのかい!カラオケ一緒に歌ってくれるようなさあ・・」
ひとりで立て続けに3曲もぶちかましたその酔っ払いはマイクのスイッチを入れた状態で叫ぶ。
正直迷惑なオヤジ集団にイライラしていた俺だが、やつのこのストレート過ぎる質問にママがどう答えるのかには興味がありヒロと二人顔を合わせニヤっとした。
しかし期待していた答えとは逆にしのぶママから出たのはこうだ。
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