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今宵、あたしは生け贄になる。
この里を救うために。
ああ、篝火が燃えてる。あれは、あたしの体を焼くための炎なんだ……。
あたしは、パチパチとはぜる薪と炎を
ぼんやりと見つめながら、もう逢えないあの人を思った。
安倍晴明ーー
あたしに名前をくれた人。
そして、この世では二度と逢えない人。
その名を呟こうにも、あたしには舌がない。
伝えたい言葉なら、いっぱいあったのにな。
「生け贄、白狐を前へーー!」
槍をもった村人が、天空に槍をかかげ、あたしの背をドンと押した。
思わずよろけて、ふらりと前に踊りでる。
そのままペタリと地面に座りこむと
目の前は、炎。
夕闇はもう、とっぷりと暮れて。土蜘蛛の里を夜が支配する。
村人達に輪になって囲まれて、あたしにはもう、逃げる術がなかった。
「沙雪……」
おもわず声にはじかれて顔をあげると、
祭壇の上に立つ、漆黒の巫女と瞳がふれあう。
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