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たくさんの村人たちが、あたしと、円御前の動きに注目している。
どうしよう、なんだか怖い……!
あたしは彼女の大きな瞳から目をそらすことができなかった。
にぎやかな太鼓、たのしげな笛の音。
今宵は、漆黒の巫女が成人することを祝う
土蜘蛛の里の、宴。
祭の絢爛と騒音のなかで、闇を孕んだ椿が
あたしの眼前に立ち、スウッと膝をつく。
「今宵、この宴の日をどんなに待ったことか」
うしろ手に縛られた縄が村人により、ほどかれる。
彼女はあたしの顎を、指先でクイと持ちあげた。
「待ち焦がれたわ、白狐」
「くっ……」
「おまえは大切な贄。漆黒の巫女、黒百合姫
さまが成人するための捧げもの」
「うう……」
「あはははははははははは。哀れなものね?
双児でありながら。おなじ顔を持ちながら、
片割れは神となり。片割れは、贄となる」
「ぐっ……!」
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