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少しだけ、考えてみた。
男性経験は皆無と言っていいほどないけれど、こういう時のお約束は分かっているつもりだ。
金か、女か。
親切なフリをして、全てを絞り取られるのが関の山。
世の中に情なんてものは欠片しかない。
……それでも、もう、いいや
私はひとつ瞬きをしてみた。
涙が枯れてしまったせいか、瞼を閉じると少しだけ目にしみた。
スルリと、私の心臓をかき乱していたものがどこか遠くへ押し流されていく。
……もう、いいんだ
ノロノロと手を上げて、落とす。
ポスン、と、私の小さな手は彼の手の中に収まった。
その手を、彼は嬉しそうに握る。
そんな彼の手は、今まで手をつないだ誰の手よりも、温かかった。
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