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それは産まれながらにして、自制できない殺人衝動を持ってしまった少年の話。
少年は幸せだった。
母は厳しくも優しく、父はあまり家にいない人だったが、帰って来れば少年が眠るまで遊んでくれた。
それに産まれた時から傍にいる同じ顔つきの、双子の妹。
家に引きこもりがちで村人との付き合いは良くないけれど、年相応の笑顔が可愛い大事な妹。
それだけじゃない。
村の友達。
ご近所に駄菓子屋のお婆さん。
花屋のお姉さん。
山菜採りの叔父さん。
皆で可愛がっている野良犬のペレ。
誰もが少年を好い、少年も心の底から皆を好いていた。
少年の世界はこんなにも恵まれていた。
なのに、何が不満だったのか。
いや、不満があったわけじゃない。
それは些細な恐怖だった。
ペレが少年に噛み付いたのだ。
ペレにとってはただじゃれついただけだったのかもしれない。
けれど少年は恐怖した。
あんなにもなつかれていたペレに、噛み付かれたのだから。
それが一時の恐怖だったらどんなに良かったか。
傷を治療されても、周囲に宥められても、ペレへの恐怖心は消えなかった。
寧ろどんどん肥大し、遂には憎悪に変わる。
そして三日後、少年はペレを殺してしまった。
麻袋に詰め、クワで何度もなぶり殺しにしたのだ。
理由はペレが怖くなったから。
傷つけられたから。
ただそんな自己中心的な考え故にだった。
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