第零章~音ナキ

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その日、少年は勇気を出して家の外に出た。 妹に連れられるがまま、皆が集う村唯一の公園に足を運んだ。 開口一番に、もう一度皆に謝ろうとした。 けれど―― 『近付くな!! 犯罪者!!』 一人の男の子が少年を突き飛ばした。 それはかつて少年と遊んだ、友人達の一人だった。 この時、少年の心を占めていたのは悲しみよりも、怒り。 そして恐怖だった。 その夜、少年はその友人を公園に呼び出した。 手には家から持ち出した包丁。 一突き目は友人の太腿に突き刺さった。 けれどまだ死なない。 殺さなきゃ。 殺さなきゃ。 殺さなきゃ。 でないとまた傷つけられる。 心の命ずるまま、少年は友人の命を奪おうとした。 しかし、そこに友人の悲鳴を聞き付けたらしい、大人が駆け付ける。 『そこで何してる!?』 そこで少年はやっと我に返る。 自分が今何をしていたのか。 己に恐怖し、少年は夜の闇へと逃げた。 騒がしくなる公園を背に村を駆け抜け、裏手の森へと。 森の奥、一人少年は泣いた。 自分は他の人間とは違う。 普通の人間なら ただ突き飛ばされただけで、友人だった者を殺そうとしない。 噛み付かれただけで、大好きだった犬を殺そうとしない。 許そうとする。 その良心があるから。
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