二日目 The Selfish gene

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「Don't ask me. Did you look at the modeling results?」 (俺に訊くなよ。モデリングの結果見たか?) 「I did. But no variables could be isolated; the only thing he had in common with everyone else was that he happened to work in the same building.」 (見たけど……)  最後の言葉は早口だったためか、私の理解力では脳内翻訳が追いつかなかった。このプロセスのたどたどしさから察するに、私の母国語は日本語であり、英語は第一言語ではなかったようだ。 (もどかしい。こんなことがわかっても無駄だ。家族構成はどうなっていた? 私が働いていた遺伝子研究ラボとは一体)  またパニックの波が押し寄せてくる。これではいけない、せめて別のことを考えて気を紛らわせよう。  生存者。モデリング。同じビルディングで働いていた(と、遅れて脳内翻訳が吐き出す)。不幸な事件。 (事故ではなく事件? この表現の差に意味はあるのか、無いのか)  ラボが事件に遭い、私だけが生き残った。理由を知ろうとして、彼らはモデルを組み立てて当時の状況をシミュレーションした。  ところが理由は依然として明らかにならない。  監禁と言うよりは、隔離されている――そこまで事実を継ぎ合わせても実感は伴わない。記憶喪失者であると、どうやっても悲壮感は生まれないのだなと妙に納得した。  ならば私は、「何」に侵されたと言うのか。  ぜひ誰かに教えて欲しい。  私は物思いに耽りながら項垂れた。 「遺伝子の研究……組み換えか? 大腸菌でも弄ってる間に人に激しく害のある型ができてしまったとか……」  自分で呟いておきながら、ばからしくなってきた。SFドラマじゃあるまいし。せめて外の世界の様子がわかれば、新種によるパンデミック展開の有無が知れるのに。大体、身体には何ら異変が表れていない。或いは私の中で一体何が起こっているか。  考えるだけで労力の無駄に思えてきた。  私は台の上にのそりと上がり、横になった。諦観の気持ちに揉まれながらも眠気に身を任せようとした―― 『ああ、ダメダメ。寝てる場合じゃないよアンタ』  ――どこから!?  起き上がるまではしないが、両目を限界まで見開いた。四方八方を凝視しても部屋には私しか居ない。声は遥か上からもう一度降ってきた。 『外は至って平和さ。確かにパンデミックが危惧されてるけど、源泉はアンタだ』
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