運命

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ

運命

 俺がマグナムを飲んでいるときだった、「余命が1年しかない」女性の声が聞こえた。  女と別れたばかりで女性不信に陥っていた俺だ、女を疑いつつも彼女を見た。  女は上野樹里に似ていた。母親と思われる白髪頭の女が向かい合って座っている。 「おまえは騙されやすい」   黒羽が呟いた。 「アンタは疑いやすい」   キレるぞ!てめぇの黒いハラワタ抉るぞ。  俺は喘息に苦しんでいた。いつ呼吸が止まるか分からない瀬戸際にいた。   ジーパンのポケットの中のスマホがバイブった。  舌打ちをしてメールを見た。 【所長 別所隆っていう作家が依頼人だ。誤字脱字が多いことに悩んでいるらしい】   それは探偵ではなく、出版社の仕事だろう?   そう思った俺だったが、「分かりました」と 承諾してしまった。  うざったい任務だ。どうせならスリルある浮気調査や素行調査がいいのに。  女はガリガリに痩せ、癌か白血病だろうと思った。  「どうして、私ばかりがこんな目に遭わないといけないのかな?」  「丈夫に生んであげられなかったママを許して」   母親は啜り泣いている。   涙が込み上げてきた。こう見えても涙腺が緩いのだ。  「大変ですね」  「やだ、聞いていたんですか?」   若い女性が爽やかな笑顔を向けてきた。  「どうして、関係ないあなたが泣いているんですか?」   母親が涙をハンカチで拭った。  「私も胸の病気でね、あまり長くない気がするんです」   痰が喉に絡みつく。水を一口飲んだ。 「おい、カツレツ」   黒羽の呼び掛けるが無視した。葛城烈だからカツレツ、ベタなアダ名だ。 「大体、世の中は不公平だと思いません?真面目にやってるのに、どうして報われないんだ?」   バイキングに入って多くの企業に派遣されたが、人間扱いされたことなど1度もない。 「本当ですよねぇ」   若い女性が優しそうな微笑みで言う。  「どうです?病人同士、同盟を結びませんか?」   
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!