おばあちゃんからのメールとか。

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件名:こんにちは。もうすぐ冬になるけど、体調管理には気を 本文:つけてね。明日、お母さんの代わりに夕ご飯作りに行くから、何か食べたいものあったら教えてね。  祖母からのメールは、いつもだいたいこんな感じだ。行為の変遷を読み解くに、件名の欄からいきなり内容を始めてしまい、件名欄の文字数が最大にまで達してしまったので、仕方なく続きを本文の欄に書いた、といったところだろうか。    今ではメールよりも便利なSNSアプリがいくらでもあるというのに、祖母は頑なにそれを使わない。恐らく本人としては、文通の次に台頭したEメールを必死に使いこなそうと努力したが、それが実となったころにはスマートフォンという新世代機が現れ、自分の追った最新鋭がローテクノロジーとして蔑まれるようになったことが心底気にくわないのだろう。  こちらとしては、今では迷惑メールしか来なくなった受信ボックスの中に紛れ込んでいることがあるので、読む前にボックス内を全て消してしまわないように一応件名だけでもチェックする必要があるのが面倒だった。 Re:カレーが食べたい。  とだけ打ちこみ、送信ボタンをタップした。特別カレーが食べたいというわけでもないが、きっと、なんでもいいと返すと祖母はへそを曲げる。口頭のやり取りだけなら冷蔵庫内一掃処分セールのような晩ご飯が食卓に並ぶのだろうが、祖母が本当に求めているのは献立のリクエストではなく、僕とのコミュニケーションだからだ。  文面でやりとりする以上、声という情報は省かれてしまう。それだけでもはや、「本当に本人のものか」という点で疑問が生じやすくなりざるを得ない。だから、少しでも、メールの相手が僕であるという点を強調しなければいけない。  そのためにどうするのかというと、ちゃんと献立をリクエストすることに限るのだ。
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