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だけど、その前に体力の限界がやってきているよう。
夜が明けきらぬ頃、嵐も勢いを落とし始めた頃、海に帰れない人魚姫は、段々と意識が遠のいていく気がしていたのだ。
しかし、ふわりと体が持ち上げられ、優しい香りが人魚姫を包んだ。
「まだ生きているようだな。もう、こちらに流れてきてはいけないよ」
また、発したその声もとても優しく、耳に心地よく届く。
朦朧とする意識の中で、うっすらと瞳を開けると、とても美しい青年が微笑んでいた。
立派な衣服に身を包んだその青年は、自ら海へと入り、人間の背丈から考えて、それなりに深いところまで運んだあと、その手を放した。
「人魚は我が王家の至宝。嵐の夜に穏やかな海をありがとう」
ささやかなお礼を述べると、そのまま陸へと帰ってゆく。
住むべき場所が違わなければ──この人魚姫と、青年はくしくも同じことを考えていた。
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