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? 友だちだと思っていた人に告白されたのですけどどうしましょう、なんて相談を受けたのは、特別に例えることの何もないようなお昼時、満席だらけのレストランでのことで、ボクは想像もしなかったその言葉に思わずドラマか何かの仕草そのままにフォークを取り落としてしまった。
意外なほど大きな音が立って注目を集め、背中に感じる視線の多さに顔が熱くなった。最近話題になっていつ見ても行列しているのにたまたますんなり入れたラッキーな日で、ほかのどの席にも女性客ばかりなのは正直に言ってしまえば、好きでもないアーティストの話題に相槌を打っている時みたいに居心地が悪かったのに、目の前に座る後輩の存在がボクをその場にとどめた。
こういう場所に縁がないというわけではなくて、以前むりやり連れて行かれたりもして覚悟はあるつもりだった。ただ、最初こそ自らの足でわざわざ入ろうと決心できたのは、行列が短かったからとかハロウィンフェアをやっていたからとか、そんな、時たま無農薬を謳う野菜を買いたくなる瞬間のような気持ちからではなくて、きちんとした理由がある。
「あのう、大丈夫ですか?」
鈴谷みのりとはもう四年か三年くらいの付き合いだった。一人暮らしのボクにとっては、確かにその存在は話しをしていて心落ち着かせるものでこそあったし、今も、おざなりの返事をしようとしたらその心配そうな顔を見てしまって、熱くなった頬を思わず手で触ってしまうくらいには、彼女にどう思われるか気にしている。
だからこそ、ボクはただ鈴谷がどことなく入りたそうにしていたというのを敏感に、まるで飼い主に尽くす犬の如く感じ取ってしまったのだった。
「……それで、なんだっけ……告白、告白されたって、あの、樺北さんに?」と、顔の温度を必死に隠しながら言葉をつなぐ。
「ハイ、その……つい先日」
「バイト、長いんだっけ?」
「ええっと……期間ですか、それなら――――三年、になりますから、そこそこ」
ちょっと考える隙にミートソースのついたフォークを振り回しかけて、恥ずかしそうに彼女はそれをていねいに置いた。ここが映画館か何かでもないのに、できるだけ音をたてないようにして。
「んー、三年かー……」
ボクはバイトの期間が何か重要な情報であるかのように考えるふりをしながら、時間を稼げたことに安堵する。
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