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桐生と半月くらい前に話したことを思い出しながら、ベンチの硬い感触が腰を痛めているのに顔をしかめそうになる。めぐりの悪い血の流れがおなかの辺りで渦巻いて、ボク自身も口にした「違い」については分からない苛立ちが、出そうとした声よりもずっと沈んだ、怒りを抑えているようなものにさせているいるのに気づいた。
「すみません、あの、やっぱりご迷惑でしたか」
だから鈴谷がそう言って下を向くのにうろたえはしなかったし、ビュウ、と、そうさせたことを咎めるように強い風が吹いて、彼女の長い髪を巻き上げ、停電のように、ボクの視界を埋め尽くした時にも、声一つ上げる事もなかった。慌ててその艶やかな黒髪をまとめなおすのを呆然と眺めて、恋愛ごとの一つにもこんなに気後れしているらしい自分を叱りたくなった。愛想をつかしたのか、スズメは風に乗ってどこかへ行ってしまっていた。
「相談には乗るよ、力にはなれないかも知れないけど」
偉そうな口調。思いつきであの雑貨屋に立ち寄って、たまたま同じように顔を見せていた彼女に話があると言われて。ついでにお昼でも、と誘ったのは自分なのに。そのせいで後ろめたくなってしまっているのかも知れない。確かにこんな、ここまでの話だとは予想できなかったけど。
「……まあ、突然の事で驚いてるとは思うけどさ、どうなの、自分の気持ちは」
「気持ち、ですか」
今までそんな些細なことは忘れていたとでもいう風に、鈴谷はちょっと間をおいて、
「……どうなんでしょう、よく、分かりません」
「別に嫌いじゃないんでしょ?」
「それは、当たり前です」
「ならやっぱりさ、大事な事だから、ゆっくり考えたらいいんじゃないかな」
「……ひよりちゃんもそう言ってくれました」
「一晩寝たら考えがまとまるって事もあるよ」
他人事だった。それがどこまで役に立つのか考えもせず、手品のようにすらすらと出てくる言葉。
鈴谷は、進んでも戻ってもいないこの出来事の行く末に不安を拭い去れないようで、けれど、だからといって今はこれ以上、種も仕掛けも見破れないとばかりに、なにも考え付かないようだった。しぶしぶ、と言った調子で頷く。
「親友だと思ってたから、やっぱり、そういうのは考えられなくて」
「そういうもんだよ、両想いってのはなかなかないし」
「普通のことなんでしょうか」
「それは――」
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