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アリスが指摘したそれが、トリュッケン王に与えられた一代限りの象徴。帝国の忠臣、守護者の証。盾の国旗に特別に交差した槍をあしらったものだ。
「現在王が城に滞在している証ね。その旗があるだけで、サルディアの治安は抜群に良くなるわ」
「王様が、そうなんだ」
歩いていると十字架が見えてきた。門番の情報は正確だった。
「あったわね、あたしは教会に行ってくるわ、アリスは城ね。後で宿屋で合流しましょう、サルディアの遺産って店よ」
何とも怪しげなネーミングだが、これでも歴とした老舗宿だ。
「うん、じゃあまた後でね!」
道を右に行くフラを見送り、大きな城目指して歩く。右を見ても左をみても人、人、人だ。
「うーん、人に酔いそう」
冗談とも本気ともとれる独り言。森に暮らしていたら出会う人間など片手もあれば充分、村に行っても精々が十数人。ところが今は、視界に入る者だけで百や二百は居そうだ。
「ダメよアリス・アルティン、しっかりしなさい! そんなことじゃ師匠に叱られちゃうわよ」
己を保て。彼女が敬愛する師匠が苦々しく示した一言、それを実践しようと常日頃心がけている。
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