第1章:はじまり

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「松田ー打てよぉ!」 「三振すんなよ」 そんな言葉たちをネクストバッターズサークルで聞きながら、僕は深呼吸する。 しかし、心を落ち着ける間もなく、松田は相手ピッチャーの投げた球をクリーンヒットして出塁した。 ノーアウトランナー一塁 はじめて入る試合のバッターボックス。 「おい緊張すんなよ!」 「淳振っていけー」 くそ。 打てるわけないじゃん。 僕は相手に緊張がバレることなど気にする余裕も無く、打席に立った。 監督のサインを見る。 出ているのはバントのサイン。 助かった。 打つよりはバントの方が得意だ。 僕はバントの構えを取り、ピッチャーの投球を待つ。 そしてピッチャーは投げた。 僕はそのボールをストライクゾーンではないと判断し、バットを引く。 「ボール!」 主審をしている相手チームのコーチが大きな声でコールした。 相手ピッチャーは早くも汗を拭っている。 そこからストライクゾーンに入らない球がさらに2球続いた。 あれ?ピッチャー荒れてるのか? 僕は一応監督のサインを確認するが監督は不敵な笑みを浮かべながら、イッタと会話をしていた。 なんだ? バントでいいのか? 悩んでる間にも相手ピッチャーは球を投げてくる。 そしてその球はまたもや外れた。 「フォアボール!!」 僕にとってこれは人生初めての出塁。 震える手を押さえながら、良かったと呟いた。 結局その回イッタのヒットで2点が入り、攻撃を終えた。 そして守備につく準備をする。 僕もセンターに走って向かおうとした時、イッタに呼び止められた。 「淳はじめての打席、どうだった?」 「酷い仕返しだよ。下手なの分かってるくせに」 僕はやれやれといった感じでグローブに手を入れる。 「馬鹿かお前は。お前が試合に出るのが突然になったのは昨日の仕返しだけど、使えない奴を入れてくれとは言わないよ。ましてや大事な友達だぜ」 イッタはそれだけ言い残すとマウンドに向かって駆け出していく。 逆に僕は進めていた足を止めてしまった。 嬉しいのか、恥ずかしいのか、よく分からない感情が込み上げてくる。 そんな僕の肩を、知らぬ間に後ろにいた監督がポンッと叩いた。 「お前は守備がうまく、足が速い。バントも上手いし、背の低さを生かした選球眼もある。これがあいつの評価だ。期待に応えてやれよ」
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