第1章:はじまり

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「はい……」 監督の言葉に応えた僕は一歩一歩、しっかりと踏みしめながら外野に向けて駆けていく。 イッタがそんな風に見ててくれていたなんて、正直ちょっとやりづらい。 「まぁ……やるしかないよなぁ」 その試合僕はヒットこそ無かったものの、バント1つと出塁1つ。守備でも1つ見せ場を作ってチームに貢献した。 試合は5ー0で僕らの勝ちで、僕らのチームになっての初戦は上々の滑り出しをしたのである。 「淳初試合おつかれさまぁ!!」 「イッタ君もおつかれ!」 「いやぁ今日は酒がうまいなぁ」 「お父さんあんまり飲みすぎたらダメですよ」 その日の夜、うちの家ではイッタも招いて僕の初出場を祝う会とやらが開かれた。 いちいち大袈裟な家族である。 「いやぁ、イッタ君! うちの息子は迷惑をかけなかったかね」 「最後の三振が迷惑でしたね。まぁ俺がカバーしたので」 「お兄ちゃんダサーい。イッタ君はかっこいいわぁ」 おいおい。 妹よ、今日は僕の初出場を祝う会だぞ。 「それは、うちの淳がご迷惑を!」 「あっちゃん! あなたも謝りなさいよ」 母さんは僕のことをバシバシと叩く。 この女、お父さんの前に自分が酔ってるじゃないか。 「いえいえ、これからたっぷりと活躍してもらうつもりなので。なぁ?」 イッタは僕の方に向き直しながら振ってくる。完全に雰囲気に酔っている表情だ。 「ああそうだな」 僕はそれだけを言うと、スマホを取り出し、ミルキーを開いた。 照れ臭いからあんまり好きじゃないんだよな。 さっき書いた日記[僕も試合デビューしました]の画面を開くと、コメントが一つ来ている。それは前に好きなアニメのサークルで友達になったみのりちゃんからだ。最近は毎日僕の日記にコメントをくれ、それに返すと、またコメントが来る。 [おめでとう! 凄いね! イッタ君の隣の小さい子がアツシ君かな? アツシ君もかっこいい!] そのコメントに僕は思わず頬が緩む。 今まではこういうやりとりは苦手だと思ってたけど、やってみると意外と楽しい。 [ありがとう。けどかっこよくはないよ笑嬉しいけどね] 僕は表情を緩ませながらそんな文章を打っていると、知らず知らずのうちに家族とイッタの視線の全てが集まっていた。 「きもっ」 妹の冷たい言葉が響いた。
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