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この達成感を味わえるのも、小説を書く気にさせてくれたみのりちゃんのおかげだな。
僕はみのりちゃんがこの作品のために描いてくれた表紙を見る。
みのりちゃんは驚くほど綺麗で優しく、主人公である投手と捕手の二人を描いてくれた。
投手はイッタ、捕手は僕のつもりで描いたと言っていたが、本当に特徴をよく掴んでいる。僕が小さいのも含めて。
実際にこの小説を読みにきた読書の中には表紙に惹きつけられてきましたという方も何人かいた。
まさかみのりちゃんがこんなに絵が上手かっただなんて。
そんなことを考えながら自分の部屋の天井を何気なく見ていると、来訪者を告げる音が家中に響いた。
お父さんかな? 入ってきた足音は階段を駆け上がってくる。
そして僕の部屋の扉は開かれた。
「うーっす!」
「……なんだよこんな時間に」
そこには、お風呂上がりなのか、髪の毛にツヤがあり、ほっこりしたような表情のイッタが立っていた。
もう時間は20時を過ぎている。こんな時間に来るなんて珍しい。
「なんかあったの?」
「いや、たまたまそこの銭湯行ってたから寄ってみた」
「なんだそりゃ」
イッタはたまに突然予想外の行動をしてくる。そして僕はいつも振り回されるのだ。
「ところで、小説完結おめでとう。面白かったぞ。お前多分才能ある」
「それはどうも」
僕は身体を起こし、ベットの上に座った。
イッタはクッションを勝手に引っ張り出して使っている。
「俺たちも小説通り優勝しなきゃな」
「俺はキャッチャーじゃないけどな」
「キャッチャー行くか? 以外と似合うかもしれないぞ。みのりちゃんの絵にあるお前がモデルのキャッチャーも様になってたし」
「いくわけないだろ。それに俺は最後にお前に勝負しろなんて言えないよ」
小説のラストを引き合いに出し、僕らは一瞬の間を置いた後に笑いあう。
「まぁなんにせよあと1勝で俺たちが目標としていた舞台に行けるんだ。負けられないぞ」
「当たり前だろ。それをわざわざ言いにきたのか?」
「いや、来たのは暇だったからだ。けど眠たくなってきたからもう帰るよ」
もう帰るのかよ。
いまいち何をしにきたのかわからないイッタは本当に帰るつもりのようで立ち上がる。
「送るよ」
「そう来ると思った」
僕も立ち上がり、パーカーを羽織った。
最近の夜は少し冷える。
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