第2章:崩壊の景色

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「おばさんお邪魔しました!」 僕の家族に挨拶するイッタを、また長々と話し出すのを恐れた僕は引っ張り出して玄関を出る。 案の定妹の雪子は飛び出してきそうになったが、なんとか接触を交わすことができた。 「なぁ、淳の妹って俺のこと好きなの?」 「かもしれないな」 「お兄さんって呼んだ方がいいか?」 「麻里ちゃんにチクるぞ」 僕は解けていた靴紐を結び直す。イッタは先に行かずに僕を待った。 「あれだな、最近寒いな」 「風邪引いたらダメだからこれ貸すよ」 「それで淳が風邪引いたら嫌だしいいよ」 いつも通り会話をし、いつも通りのイッタの家までの道程。 いつも通りの二人で、いつも通りの笑い声。 いつも通りのーー 「ん? あれはなんだ? 煙?」 いつも通りだったんだ。 確かにそこまでは。 あんなことになるなんて想像もつかなかった。いや、つくわけがないんだ。 気付いた時にはもう見えない悪魔に羽交い締めにされていたんだ。 「あれは……麻里んちの近くだ!」 走り出すイッタの背中を、待てよと叫びながら追いかける。 待つわけがない。イッタが止まるわけがない。 「はぁ、はぁ。麻里んちだ……」 燃え盛り、大きな煙が天に昇っていく。 そこは間違いなくイッタの彼女である麻里ちゃんの住む家だった。 多くの人集り。消防車はまだ来ていない。 響いているサイレンの音はまだ遠い。 「麻里!」 イッタは人を掻き分け飛び出した。 僕は手を伸ばす。 「止めろ、イッタ!」 「危ない、行くな!」 しかし僕の手はイッタの手をスルリと掴み損ねた。 イッタは炎の中に飛び込んでいく。 僕の足は動かない。 「イッタ……」 助けに行かなくちゃ。 こんなの無茶だ。 イッタだけでも助けなくちゃ。 そうしないとイッタが、イッタがーー 頭の中は確かに焦っていた。 けれど足は動かない。 恐い。無理だ。僕には。けど助けに行かなきゃイッタが。 なんで足が動かない!! 結局その時僕の足は動かなかった。 立ち尽くすしかなかった。 そしてそんな僕の目の前で、麻里ちゃんの家は炎に飲み込まれて崩壊した。 崩壊の景色が涙で歪む。アスファルトに膝を付く。イッタの名前を叫ぶ。 そこから先はあまり覚えていない。 ただ突き付けられた事実。 イッタは死んだ。 臆病な僕の目の前でーー
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