第3章:依存

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人の目が怖い。 一つ一つの目が一斉に心に刺さってくる。 近付いてくる長谷。 「イッタの母さんから聞いたぞ」 なにを。 掴まれる胸倉。壁に追い詰められる。 「なんで逃げたんだよ! 友達だろうが!なぁ!!」 違う。違う。 逃げてはいない。掴めなかった。動きたかった。けど動けなかったんだ。 僕は長谷の手を振り切って逃げ出す。 部室の中。 そこには準優勝の賞状と花瓶が置かれている。壁に貼られた写真のみんなは泣いていた。その涙の理由が決勝で勝てなかった悔しさだけではないことは明らかだった。 「淳」 後ろを振り向くとキャプテンの松田が立っていた。 松田の目は僕を見ていない。 「お前がそんなやつだとは思わなかったよ」 松田にも僕が逃げたと伝わっているのか。 僕の居場所はどこに。 一体どこに。 「野球部辞めてくれ。頼む」 僕は部室を飛び出し、走り出した。 いつもイッタと二人で歩いていた帰り道を一人で泣きながら、叫びながら走る。 言葉にできない感情が入り乱れすぎて、もう僕は今まで通りこの道を歩くことはできないとその時思った。 そうして僕は部屋に籠った。 そこは硝子の部屋。 気を遣ってくれる親と妹さえ、硝子越しに見えた。 外の世界は見える。 けれど触れることはできない。 向こうからも僕が見えている。 けれど近付いてくることはない。 外の世界に人がたくさんいて、こちら側には僕一人。 けれど僕の気持ちを理解してくれる声が一つだけ。 [みのりちゃん。イッタが死んじゃった。僕のせいだ。僕が助けていたら] [淳君が悪いんじゃないよ。みんなが敵でも、私だけになっても、私は淳君の味方で居続けるから] 僕は彼女だけを硝子の部屋に入れた。 けれど文字だけの関係。姿は見えない。 彼女はスピーカー。 唯一部屋の中にある僕の味方。 朝、太陽がカーテンの隙間から差し込んできて僕の顔を照らす。 なかなか眠れなかったがいつの間にか寝ていたのか。 僕は目に溜まったものをパジャマの裾で拭った。 枕元に置いている眼鏡を掛けて時計を見る。あぁ、この時間ならギリギリ一時間目の授業に間に合いそうだ。
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