第3章:依存

8/25

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
心の中にいるイッタに訴えた僕の声は、虚しく反響した。 ダメだ。 僕は唇をギュッと閉じて、噛みしめる。 イッタが浮かぶと僕はダメになる。 言ってやりたいこと、聞きたいこと、話したいこと。叶わないそれらが、涙となって漏れ出しそうになるのだ。 くそ、耐えろ。耐えるんだ。 これはあの時、止めることも追いかけることもできなかった僕への罰なんだ。 歯を食いしばって受け止めて、耐えなきゃダメなんだ。 泣いちゃダメなんだ。 「はい」 潤む目の前に、ハンカチが差し出される。 ピンクの色した、花柄のハンカチ。 理解するのに時間がかかった。 隣を見ると今まで一言も喋ったこともない秋本が、授業が始まる前と同じようにまた僕をじっと見ている。 しかし今度はただ見ているだけではなく、彼女の手のひらにはハンカチが置かれ、その手のひらは何故か僕の前にあった。 クラスメイトに話しかけられるという、久しく起こってなかった出来事に、僕の頭の中にははてなが浮かぶ。これは夢か何かか?いや、夢の中でもこんなことはない。 突然の出来事に困惑したせいで頭が正常に働かなくなったのか、僕の頭の中はコントロール不能になった。 僕はその花柄のハンカチを見る。 そして相手の目を見る。 だんだんとボヤけてくる。 「授業は?」 強がりながら出た僕の言葉に、彼女は優しく答えた。 「もう終わったよ。とりあえず拭きなよ」 涙が溢れる。 頬を伝い秋本のハンカチに一滴落ちた。 ハンカチを受け取らず、それでも堪えようとする僕に対して、痺れを切らした彼女はそっと僕の目にハンカチを当ててくる。 「なにをそんなに意地を張ることがあるのよ。泣きたいなら泣けばいいじゃん。あともう私はあんたが感情豊かなこと知ってるから」 昨日まで知らなかったけど。 そう付け足した彼女はハンカチを無理矢理僕に持たせ、僕の側から離れる。 なんだこれは…… 嬉しいのか? 僕は。 貸してもらったままのハンカチを握りしめる。 周りはいったいどんな目で今の僕を見ているのだろう。 なに泣いてんだ、あいつ まぁどうでもいいや。 そんな感じだろう。 今までそんな目は腐るほど向けられてきたし、慣れているし気にならない。 むしろ気になるのは秋本が僕に絡んでくる理由だ。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加