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心の中にいるイッタに訴えた僕の声は、虚しく反響した。
ダメだ。
僕は唇をギュッと閉じて、噛みしめる。
イッタが浮かぶと僕はダメになる。
言ってやりたいこと、聞きたいこと、話したいこと。叶わないそれらが、涙となって漏れ出しそうになるのだ。
くそ、耐えろ。耐えるんだ。
これはあの時、止めることも追いかけることもできなかった僕への罰なんだ。
歯を食いしばって受け止めて、耐えなきゃダメなんだ。
泣いちゃダメなんだ。
「はい」
潤む目の前に、ハンカチが差し出される。
ピンクの色した、花柄のハンカチ。
理解するのに時間がかかった。
隣を見ると今まで一言も喋ったこともない秋本が、授業が始まる前と同じようにまた僕をじっと見ている。
しかし今度はただ見ているだけではなく、彼女の手のひらにはハンカチが置かれ、その手のひらは何故か僕の前にあった。
クラスメイトに話しかけられるという、久しく起こってなかった出来事に、僕の頭の中にははてなが浮かぶ。これは夢か何かか?いや、夢の中でもこんなことはない。
突然の出来事に困惑したせいで頭が正常に働かなくなったのか、僕の頭の中はコントロール不能になった。
僕はその花柄のハンカチを見る。
そして相手の目を見る。
だんだんとボヤけてくる。
「授業は?」
強がりながら出た僕の言葉に、彼女は優しく答えた。
「もう終わったよ。とりあえず拭きなよ」
涙が溢れる。
頬を伝い秋本のハンカチに一滴落ちた。
ハンカチを受け取らず、それでも堪えようとする僕に対して、痺れを切らした彼女はそっと僕の目にハンカチを当ててくる。
「なにをそんなに意地を張ることがあるのよ。泣きたいなら泣けばいいじゃん。あともう私はあんたが感情豊かなこと知ってるから」
昨日まで知らなかったけど。
そう付け足した彼女はハンカチを無理矢理僕に持たせ、僕の側から離れる。
なんだこれは……
嬉しいのか? 僕は。
貸してもらったままのハンカチを握りしめる。
周りはいったいどんな目で今の僕を見ているのだろう。
なに泣いてんだ、あいつ
まぁどうでもいいや。
そんな感じだろう。
今までそんな目は腐るほど向けられてきたし、慣れているし気にならない。
むしろ気になるのは秋本が僕に絡んでくる理由だ。
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