第3章:依存

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いったいどうして急に僕なんかを見てくるようになったんだ? 僕にハンカチを渡そうと思ったんだ? 僕が秋本に何かしたか? 当然全く身に覚えはない。 「もう私はあんたが感情豊かなこと知ってるから」 彼女の言葉から理由を求めようとすると、もっと分からなくなる。 僕は秋本に感情を見せたことはない。 さらにさっき彼女は昨日まで知らなかったとも言っていた。 そもそも僕が感情を表現するのはみのりに対するメールと小説を書く時だけだ。 感情が豊かだというのも……みのりにしか言われたことがない。 [淳くんは感情豊かだよね。淳くんとメールをしたり淳くんの書いた小説を読むと、私の心も豊かになっていくような気がするの] 僕はみのりから送られてきた言葉を思い出す。僕はたしかその時、[僕が感情豊かだなんて言うのはみのりだけだよ]と送ったと思う。 もしかして秋本楓が…… 「それは無いよなぁ」 僕は目を抑えながら、自分の頭に浮かんだ考えを否定するように呟いた。 とりあえず秋本に聞かなければ何も分からない。 涙を拭き終え、冷静さを取り戻した僕は顔を上げる。 「お前さ、涙を流しながらピンクのハンカチ握って何してんの?」 そこにはクラスメイトは一人もおらず、さっき秋本がいた場所から横山が僕の顔を覗いていた。 あ、そうか。 次の授業、体育か。 僕は横山の顔を無言で払い、体操服を持って立ち上がる。 横山は必死に何かを伝えようとしていたが、全て無視して教室を出た。 二時間目体育 三時間目四時間目が選択制の芸術の授業。 「なんで今日に限ってーー」 僕は溜息をつく。今日に限って普通の授業が全然出てこない。 そのせいで秋本と話す時間も無い。 さらに昼休みに話を聞こうとしていたら、体育館で集会があるときた。 ほんと僕は全く付いてないな。 みのりにメールを送りながら僕はダラダラと体育館に向かう。 周りには誰もいない。 実は集会はもうとっくの前に始まっていたらしい。 友達のいない僕には集会があるという情報が回っておらず、何故か人のいない食堂で食事をして、教室に戻り黒板を見て、ようやく気付いたのだ。
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