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「ん……あ、斎藤起きてたの」
僕の溜息が大きすぎたのか、秋本はゆっくりと目を開いた。
その目が赤いことに少しドキッとする。
泣いてたのか? こいつ。
「今起きたところだよ」
僕は秋本の顔から目を背ける。
「ごめんね。なんか無理矢理な感じで引っ張っちゃって。まさかあんなになるほど嫌だったなんて思わなかった」
秋本の声に朝のような元気はない。
本当に落ち込んでいる様子に、僕はまた溜息を吐きそうになる。
やめてくれよ、悪いのは僕なんだから。
「別にいいよ。それの授賞式だったんだろ。人前に出るのが苦手なのに、授賞して表彰されることを全く考えずに作品を出した僕が悪い」
つまり僕がそれを出さなきゃよかったんだよ。
僕はそう言いながら、立ってるのがしんどくなり、秋本の座る椅子の前の床にお尻をつけた。
秋本をチラッと見ると、僕の言葉に首を振っている。
「それは違うよ。斎藤は悪くないし……この小説を出したことを間違いだなんて思ってほしくない。私はこの小説と出会えてほんとに良かったと思ってるの」
秋本が良くても、僕が後悔してたら間違いじゃないか?
そう言い返そうとしたが、僕の小説を大事そうに抱える秋本を見ると、出かけた言葉が喉元で止まった。
今までたくさん小説を書いてきたし、褒められることもたくさんあった。
なによりもみのりの感想は励みになったし、それが嬉しくて今まで書き続けてきた。
けれど、目の前にいる人から感想を貰うのはーー
「ところで、小説完結おめでとう。面白かったぞ。お前多分才能ある」
ーーあの時以来だな。
「その小説、そんなに面白かったか?」
少しぶっきらぼうな感じで、照れ隠ししながら聞いてみる。
すると秋本は花が開いたような表情に変わり、身振り手振りを入れながら話し始めた。
「面白いというか、凄いよ! 感情の起伏の激しい主人公と、冷静な女の子の構図で話が進む。けれど最後は主人公ではなくて、女の子の方が感情の全てがどっと溢れ出して、とても人間らしさを感じるの! あぁ、斎藤ってこんな小説が書けるような、感情豊かなやつだったんだって、私本当に感動しちゃって……」
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