第1章:はじまり

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蝉の鳴き声が嫌になるほど耳に響き、青空の下野球ボールを追いかける。 そんな野球日和の夏休みになるつもりだったのに。 「三日連続で雨ってなんだよ……」 僕は地面に打ち付ける雨音に対して、どうしようもなく呟いた。 外を見てみると、雨が真っ直ぐに落ちてくるわけではなく、斜めに降り注いでいる。 これは台風により、風まで伴ってしまっている影響だろう。 「まぁまぁ、そう言うなよ。せっかくの休みなんだからさ」 こんな雨の中でもお構いなく、笑顔で僕の家に来たイッタはスマホを弄りながら、持参したお菓子を食べている。 「お前一応エースなのに、大会が近いことに対する焦りとかは無いのかよ」 「焦っても仕方ないだろ」 イッタは僕の言葉に、スマホに目をやったまま返してきた。 確かにその通りだが、こいつは気楽すぎる気がする。 僕は意味もなく、窓の外を眺めるのを止め、イッタの持ってきたお菓子を摘んだ。 キノコか……僕はタケノコ派なんだけどな。 「ところでイッタ。お前今日は彼女とデートだって言ってなかったか?」 僕は昨日イッタが明日は彼女と遊ぶ日だから、僕の家には来ないと言っていたのを思い出す。 なぜ、こいつは今ここにいる。 「そりゃ雨だから中止だろ」 「僕の家に来るぐらいなら彼女の家に行きゃ良かっただろ」 「なんだよ、迷惑なのか?」 「あぁ、迷惑だ」 僕はやりかけの宿題を整理する。 今日こそは夏休みの宿題を終わらせようと思ってたのに。 イッタは来ると、必ず夕食まで一緒に食べて夜遅くまで残る。 そのくせに自分はあっさりと宿題を終わらせてしまってるんだから、ほんとに迷惑な奴だ。 「なんだ、なんだ。宿題が進まないのは俺のせいって言いたいのか?」 そういうことだよ。 片付けの終わった僕はイッタのスマホを覗く。 「さっきから何を真剣にやってるんだよ」 真剣な顔をしたイッタはしばらくその言葉に返さずに黙っていたが、ひと段落ついたところで、僕に顔を向けてきた。 「これは最近流行ってるミルキーだよ。知らない?」 なんだそのまろやかな牛乳が入ってそうな名前は。全くの初耳だ。
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