地下牢の遊戯

2/55

636人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「────薫さん」 声がする。優しい柔らかい声。 俺の大好きな声だ。 「こんな所で寝ていたら、風邪引きますよ」 パチッとした二重の目がふわりと微笑む。 そんな愛子を見て、気持ちが穏やかになる。 自分の頬が緩むのも分かった。 微笑む愛子の頬に触れたくて、右手を伸ばそうとする。 しかしその時に初めて、手が動かないことに気付いた。 驚いて動かそうとするが──石のように固く動かない。 「薫さん、起きて下さい。起きて──」 すぐ目の前にいたはずなのに、愛子が遠退いていく─。 「愛子!愛子っ!」 叫びも虚しく、愛子の姿が見えなくなっていく。 「────愛子っ!」
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

636人が本棚に入れています
本棚に追加