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「────薫さん」
声がする。優しい柔らかい声。
俺の大好きな声だ。
「こんな所で寝ていたら、風邪引きますよ」
パチッとした二重の目がふわりと微笑む。
そんな愛子を見て、気持ちが穏やかになる。
自分の頬が緩むのも分かった。
微笑む愛子の頬に触れたくて、右手を伸ばそうとする。
しかしその時に初めて、手が動かないことに気付いた。
驚いて動かそうとするが──石のように固く動かない。
「薫さん、起きて下さい。起きて──」
すぐ目の前にいたはずなのに、愛子が遠退いていく─。
「愛子!愛子っ!」
叫びも虚しく、愛子の姿が見えなくなっていく。
「────愛子っ!」
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