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鉄製の扉の向こう側は牢獄や、人間の部位を保存してある冷凍庫があったと言うのに……。
ここにはそんな、血生臭い物は何ひとつない。
それは天と地の差であり、こちらは天国。あちらは地獄のようだった。
「──ボーン。ボーン……」
扉の傍にある、大きな振り子時計から音が鳴る。
時間は8時を示しており、それが朝か夜なのかは分からない。
扉の前で佇み、部屋の中を見渡す。
──人の気配は感じられない。
家具があると言えど、人が隠れることが出来る程の大きな物はなかった。
そのことを確認し終えた後、ようやく部屋の中を歩き出す。
素足の裏から、絨毯の心地良い感触が伝わってきた。
大男の返り血を浴びた体の前側は、水を被ったように真っ赤。
そして手には血濡れの包丁─。
その為、歩く度に絨毯の上には、赤い雫が点々と落ちていった。
まるでグリム童話のヘンゼルとグレーテルのように。
赤い点は、正面の茶色の扉まで続く。
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