地下牢の遊戯

52/55
前へ
/190ページ
次へ
鉄製の扉の向こう側は牢獄や、人間の部位を保存してある冷凍庫があったと言うのに……。 ここにはそんな、血生臭い物は何ひとつない。 それは天と地の差であり、こちらは天国。あちらは地獄のようだった。 「──ボーン。ボーン……」 扉の傍にある、大きな振り子時計から音が鳴る。 時間は8時を示しており、それが朝か夜なのかは分からない。 扉の前で佇み、部屋の中を見渡す。 ──人の気配は感じられない。 家具があると言えど、人が隠れることが出来る程の大きな物はなかった。 そのことを確認し終えた後、ようやく部屋の中を歩き出す。 素足の裏から、絨毯の心地良い感触が伝わってきた。 大男の返り血を浴びた体の前側は、水を被ったように真っ赤。 そして手には血濡れの包丁─。 その為、歩く度に絨毯の上には、赤い雫が点々と落ちていった。 まるでグリム童話のヘンゼルとグレーテルのように。 赤い点は、正面の茶色の扉まで続く。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

637人が本棚に入れています
本棚に追加