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傷痕を上から下へとなぞっていく。
胸から左脇腹に掛けて走る、袈裟斬りの痕。
あの大男に斬られたもの。
───応接室で意識を失った後。
目を覚ますと、そこは自分の家の前だった。
玄関の扉にもたれながら、項垂れ(うなだれ)る形で座り込んでいた。
負った傷はそのままだったが、被っていた大男の血は拭き取られ、閉まっていない家の中に入ると、攫われた時のまま。
やかんの周りには飛び散った水滴。
食べようと、蓋の開いたカップラーメン。
金目の物は何ひとつ取られていないと言う状況だった。
状況を理解して、冷静になって思ったこと。
それは、あの応接室で刺さったダーツのような矢。
あれは即効性のある、睡眠弾だったのだろう。
動物には麻酔銃で眠らせるが、人間用の麻酔銃はない。
それを考えると、睡眠弾しか考えられなかった。
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