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恨めしいことに俺の安眠を妨害するかのごとく、枕元にあったスマートフォンに一本の電話が入った。
十秒ほどの睡眠欲との格闘。しかしうるさい。
しびれを切らした俺は布団に入ったまま、寝ぼけまなこで、仕方なく電話に応じた。
「んぐ…はい…。え、あ、そうですけど…。はい…。えっ!?」
用件が分かると同時に俺の眠気は空の彼方へ吹っ飛んだ。
「…はい! 分かります分かります。…はい! 了解しましたァ! …んごぉ!!」
咄嗟に布団から飛び起きるやいなや、机に足をぶつけて涙目になるともう夢の世界とはおさらばだ。
そして電光石火の如く身支度を整え始める。
財布、スマホ、メモ帳、ペン。
乱雑に部屋に散らばった諸々の必需品を愛用のボディバッグにしまい込む。
朝食を摂る余裕など当然ないわけで、車掌のごとく指差しで忘れ物を確認。
そしてバッグを携えて部屋を飛び出す。急げ急げ。
「あ、おはよう」
ドアを開けると通路には隣部屋の住人の姿があった。大学生の女性、瀬戸さんだ。自分同様起床直後なのか、髪がぼさぼさである。
隣部屋ゆえにそれなりに仲はいいわけだが、これまた構っているヒマはない。
「おはようございます瀬戸さん! ちょっと急いでるんでまた!」
「何か依頼? 頑張ってー」
「そうでーす。いっちょやってきまーす」
振り返ることなくダッシュしながら最後の返事を返すと、アルミの階段をタンタンタンと音を立てて下り、アパートの隅へ向かう。
置いてあった自転車で素早く駆け出した。
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