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蒼穹(そうきゅう)の下。
山々に囲まれた草原には、何千もの騎馬が対峙していた。
騎乗している男たちは袴を身につけ、手には魔武器と知れる槍や刀を持っている。
向かい合う男たちの背には、一方に赤の、もう一方には黒の旗がはためいていた。
馬の嘶(いなな)きが方々からあがる中、不思議と人の声は聞こえない。
ピンと張り詰められた空気の中、男たちの意識は向かい合う騎馬の中心に向けられていた。
赤と黒が対峙する、その中心地。
一際(ひときわ)立派な袴を身に纏う2人の男が向き合っている。
「―ふん・・・逃げ出さなかったか。」
黒い袴を身につけた男がブン、と魔武器である薙刀(なぎなた)を振る。
長く黒い髪を緩く一つに結んだ偉丈夫(いじょうふ)である。切れ長の黒曜石のような瞳は自信に満ち、人の上に立つ者であることが窺い知れた。
「は、そりゃぁこっちの科白(せりふ)だぜ、和泉守(いずみのかみ)。」
対するは、緋色の袴を身につけた男だ。
黒い髪をポニーテールにしている。和泉守と呼んだ男同様、黒い瞳だが、キラキラと輝く大きな瞳には時折光彩が煌めいた。
黒い男に比べると身体の線が細く、肌も白い。一見か弱そうだが、手に持つ刀は相手に向けられ微動だにしない。
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