うまい棒も買えないけど、価値のあるもの。

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右手に握られていたのは、十円玉だった。 たった一枚。 これじゃあ、ジュースも買えない。 お菓子も買えない。せいぜい消費税の足しになるくらいだろうが、僕はこの他のお金を持っていない。 どのみち買い物は出来ないようだ。 じゃあ、なんのための十円? 細い路地の入り口でしばらく考えてみたけど、思い付かなかった。 僕がどこへ向かうところだったのかも、それより帰る家がどのにあるのかもわからない。 僕は、誰? ここは、どこ? 家は、どこ? 家族は、どこ? どこへ向かっていたのかわからないので、とりあえず来た道を戻ってみた。もしかしたらすぐ近所に自宅があって、家の近くまで行けば何かを思い出せるかもしれない、そう思ったからだった。 結果は、何も思い出せなかった。 通り道の家の表札を覗きながら歩くけど、ピンと来るものはなく、時々犬に吠えられたりして飛び上がった。 気付けばもう、空が赤く染まっている。 夕暮れだ。遅くまで子供が外をフラフラと出歩いていたら、怪しまれるかもしれない。 仕方なく僕はまた、最初の歩道へ戻っていった。
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