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「ひどい出来だった」
老父が、吐き捨てるように側近の男に言った。
「何が父さんだ。滑稽極まりない」
「しかし、博士の子供と言えなくもありませんよ。ひな形はあなたなのですから」
「子供では駄目なんだ。同一でなくては」
廊下を進み、彼は自らの研究室に戻る。
広い部屋に置かれた自らのデスクに腰を掛けると、ため息をついた。
「すぐに実験体を開頭しろ。今回の人格データは全消去だ」
「了解しました」
側にいた男が頭を下げ、部屋を出る。
机に置かれた書類を見ながら、老いた科学者はつぶやいた。
「DNAはおろか神経細胞や脳細胞、感覚機能に至るまで完璧に私を再現したと思っていたのに……やはり、人間の記憶とは奥が深い」
少しすれば、彼のクローンは、脳内の電極によって記憶と人格を再構築される。
そして消去された『以前の男』の人格に、永遠に朝はやってこない。
「……まだまだ死ねぬな」
彼はつぶやき、ディスプレイ上の膨大なデータファイルを見やった。
老い先短い自分の研究を継ぐ『第二の天才学者』の誕生を信じて。
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