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「秀作、洗濯を手伝っておくれ。」 「今行きます。」 幕府が倒れ近代化が徐々に進む中で、上野家は急速に没落していった。今では女中を雇う余裕もなく、親子四人で細々と暮らしている。 町で大火が起こったのは、そんな時だった。 「助けてえええええ!」 「火に囲まれた!」 「中に子供が…!」 「痛い、痛いよお…」 「嫌あああああああああああ!」 悲鳴と怒号が鳴り響く。 「あれ…おっかさん?おっかさん!」 「早く、こっちだ!」 知らない男の手が私の手首を掴んだ。 「でもおっかさんがいない!」 「…覚悟はしておけ。行くぞ!」 目を覚ますと、橋の下にいた。 「目、覚めたか?」 「ここは…?」 「月橋の下だ。火は収まったみてえだ。兄ちゃん、一旦家へ…」 男が言い終わらないうちに、私は走り出した。 家は燃えて無くなっていた。私は近くにいた女に話しかけた。 「すみません、ここに住んでいた上野という者を知りませんか?」 「…皆死んだよ、火に呑まれて。」 そう言って、女は歩き去った。 焼け野原をとぼとぼと歩いていると、ぽつんと一軒だけ残った納屋を見つけた。母屋は全焼しているにもかかわらず、傷一つ負っていなかった。どこか惹かれて中に入った。 「埃っぽいな…」 長年使われていないのだろうか、一歩踏み出す度に埃が舞った。奥へ進むと、埃を被っていない綺麗な箱を見つけた。
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