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ぼくは以前からひとつの信条を持っています。完全にありえないことを取り除けば、残ったものは、いかにありそうにないことでも、事実に間違いないということです。 前略 以前画廊でお会いしたこと、覚えていらっしゃいますか。覚えていないのならこの手紙は捨ててください。覚えているのなら、続きをお読みください。 イギリスの名探偵、シャーロック・ホームズをご存知ですか。彼がこんな言葉を残しています。 『ぼくは以前からひとつの信条を持っています。完全にありえないことを取り除けば、残ったものは、いかにありそうにないことでも、事実に間違いないということです』 私はこの言葉を指標にして、貴方があの場に現れた事情を推測してみました。 ・貴方は絵のモデルである。 ・貴方は絵のモデルではない。 一つ目の仮説をもとにして考えると、貴方は不老不死、またはタイムスリップができるということになってしまうので、考えないことにしました。次から、貴方は絵のモデルではない事を前提として話を進めます。 貴方は私にあの絵の事を色々と教えてくださいましたが、その中には嘘が含まれています。それは「あの絵のモデルが中村陽である」ことです。私はあの絵の事を知るためにとある大学に赴きました。教授に話を伺うと、「絵のモデルは上野自身である」とおっしゃっていました。ここで疑問に思うことは、貴方が何故そのような嘘をついたかということです。調べれば分かってしまうような嘘を。貴方は私に『中村陽』という名前を覚えさせたかったのではないですか。 また、私は上野秀作だけではなく中村陽についても調べました。塾の講師をしているとか。顔は貴方とは似ていませんでしたけど。 話が逸れました。貴方はどうして私にその名前を覚えさせたのか。それがどうしても分かりません。ですが、貴方がどのような人物であるかは、見当がつきました。貴方は、彼の勤める塾の生徒ではありませんか。 私は名探偵ではないのでこの推論には全く自信を持てませんが、貴方にこの推論が届くことを願っています。    草々
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