2.逃げたい。逃げない。

28/28
2465人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
今の俺に剣道が無理なの、わかってるくせに。 きっと、それは願望でしかないのかもしれない。 「・・・鴻上さんが、アイツに勝ったら、考えてみますよ。」 勝ってほしいけど。 そもそも対戦できるかわからないし。 だから、そう言ってしまうのかもしれない。 それをわかっててか、鴻上さんは笑う。 「・・・責任重大だな。」 降りる駅に着くころには、剣道部の人たちはいなくて、祥吾と呼ばれた人もいなかった。 「そうだ。今度の日曜日の午後、空いてるか?」 「・・・基本、暇なんで空いてますけど。」 「おばさんのお見舞いに行きたいんだけど。」 「・・・部活は?」 「午前中で終わりの予定なんだ。」 「そうですか・・・じゃあ、こっちに着く前に連絡ください。駅からバスなんで。」 「わかった。」 スッと俺の二の腕を掴む。 「気を付けて帰れよ。」 鴻上さんは優しく微笑むけれど、素直に笑顔になれない俺がいた。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!