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「早く行け。仕事を代わってやれるのも、甘やかしてやれるのも父さんが元気なうちだけだぞ」
やんわりと笑って言った春日さんに、真尋さんの涙腺は壊れてしまったかのようにとめどなく光の粒を落として行く。
けれど真尋さんは気丈に涙を拭いて立ち上がる。
そして私たちに深々と頭を下げて言った。
「すみません。今日の横持ちは父が担当しますのでよろしくお願い致します」
「はい」
頷くことしか出来なかったのは、真尋さんを思う春日さんの親心と宇梶さんを思う真尋さんの心痛が容赦なく私の胸を締め付けたからだ。
事務所から駆け出して行く真尋さんを、目を細めて見送った春日さんがゆっくりと振り返り私を見つめると照れ臭そうに笑う。
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